kozosannokotoの日記

コーゾーさん81歳、左半身不随意、売れない絵描き。そのコーゾーさんの娘が書く介護日記です。

芸術と政治

ローマ教皇ベネディクト16世が去年の12月31日に亡くなられた。
95歳 大往生…と言っても良いのだろう。

カトリック信者である絵本作家の長谷川集平さんが
カトリックの世俗化を戒める強い姿勢が日本の信者に敬遠されがちだったが、ぼくは彼の頑固さが好きだった」
と、SNSで書かれていて、日本のカトリック信者はそういった傾向なのかな?と疑問に思う。

現職中に表面化したバチカンの内部問題や聖職者の性的虐待問題は、前教皇の戒めでは通じなかったわけだ
それは、何故だろうか
結構な課題であり、しかもすごく問題が見えやすいことになっていないか?と私には感じられる

もう一つ、ベネディクト16世は、この教会問題こそを戒めるために教皇になられたのではなかったのか?
それ以外、何から始めるつもりだったのだろうか?

つまり、彼のやり方だと「世俗化を戒める」の逆の「問題継続の温床になりかねない」と、世界に判断された
そこを問われたのは、何故なんだろうか 

…で、ここから時が過ぎて更なる疑問が出てくる

なぜ、アメリカで法的に「堕胎手術の禁止」が起きているのだろうか
何か聖化したからだろうか…いや、政治なんだから聖は直接問われていない
宗教家でも無い政治家が「聖化させる」と言い出したら職業を間違えている

そもそも人は世俗化で堕胎し、世俗化で自死の権利を得ているのだろうか
そんな判断はおかしいが、揃って現在極右と言われている政治家たちが言いそうな言葉は浮かぶ

「神から遠ざかっているから」

はぁ…その神とは、一体全体、誰の事なんだろうか

ここまで書いて、改めてご挨拶
私はカトリック信者です
堕胎手術を、医学的な利益のために行うのは反対で、
堕胎手術を法的に反対ではなく、堕胎手術をしなければならないような生活と社会に反対です


思えば、教皇ベネディクト16世の出現からカトリックスキャンダルに伴った風当たりは、
90年代から湾岸戦争で世界に発生した、右極化傾向がずるずる尾を引いているように思える
前パパ様の言い分は、「カトリック教会の堕落は、世俗に影響されている」だった
ある意味はそうで、それだけでは足りないと私は生意気にも感じている…

(日本は元々、皇國として「神のために」戦争をしているので、この気配にすぐ反応しているけど、具体的になった試しが無い。極右は言い分を見つけた感じ)

だから、ご本人の意思や意図と、希望とは遠かったのかもしれないが、
前パパ様は背負うべきことを背負うため、このタイミングで選ばれたのかもしれない

ここは神様にしか、わからない


…あ、これは「コーゾーさんの事」の日記です…
前回から間が開いた
開いたから、こんな話を始めてしまったのだろうか
医療や老人介護と全く関係ない
関係ないけど、私自身の中では大いに関係ある

タイトルも「芸術と政治」だし
…あ、宗教(カトリック)の話から始めているけれど、これも関係ないわけじゃない…

コーゾーさんの芸術は全く政治的ではない
政治思想のせの字も無い
無いけど、芸術はコーゾーさんにとって生きでいる上で追い続ける物事だ
彼が芸術家かどうかは置いておくとして、確実にこれによって生かされて彷徨い歩んでいる

このままでは、タイトルテーマ関連の説明にならない…
説明にならないけれど、意識しておかないとならない事を、あえてタイトルにしている
あと数回先まで書き進んだら説明になるかもしれない

この組み合わせは、本人にはどうしようもない様な運命に惑わされる結果になりかねない

なんだその表現みたいな日記は
日記なのに

とにかく進めよう…自分でも先に書いとかないとどうしようも無いのである

変な感じから日記、スターティン




腸の検査のために、相当量の下剤を飲むことになっている

本来は自分一人で飲んで、トイレで便を出すを繰り返して腸内をすっかり空っぽにするのだけれど、
コーゾーさんは左半身が麻痺しているので、薬を注ぐ事のみを手伝いに八王子まで私は行った。
これが5月27日の初夏
胃に癌が見つかったのは、この数日前のことだ。

朝早く、午前中いっぱい激しい雨が降っていた。
あんまり激しい雨で、いつもなら歩いて駅から病院に行くのを断念して、タクシーの列に並んだ
三十分ぐらい順番を待って、ようやくタクシーに乗れた。約束の時間ギリギリだった。

この年、5月6月は大体が平年よりも寒かった記憶がある
その後、信じられないくらい暑い夏になる。

「トイレが間に合わないかもしれないくらいお腹を下すので、紙パンツがあるといいです」
と、病院に言われていたので、コーゾーさんはちゃんと朝から持参していた紙パンツに着替えて、私を迎えた
それで、かなりの量の液体飲み薬と、1リットルほどの水を数十分かけて飲むように支持される。
場所は、広いトイレ付きの個室を用意された。

父親がいきなり下したらどうしようかな…とハラハラしながら「手術になっちゃったね」という話をした

「来週には退院できると思うんだ」
「…いや、それは無理かな…糖尿病もあるから、血糖値下げるとこから始めないと」
「すごい雨だったね」
「ね、タクシー混んでたよ」

コーゾーさんは、いつも「来週には退院できる」と言っていた
奥さんが集中治療室に運ばれた時も、「長くても来週には退院」と言っていた
時間感覚がボケてるのかと思っていたが、薬を飲むペースはきっちりしているというか、
誰が飲んでもへバりそうな量を、愚痴も言わずにしっかり飲んでいく

なんというかボケた事を言う割にしっかりもしている

数回の便意も、全く漏らさずちゃんとトイレに間に合い、やってのけてしまい、
時間どうりに終わった
便秘がちだったので、きっちりやってのけたけれど、コーゾーさんは少しヘロヘロになっていた。
それが少し気の毒だった

「遠いところを、わざわざありがとう」
「うん、ちょっと駅で着替えの買い足しして、受付に届けてから帰るから。欲しいものある?」
「…うーん描くものかな」

変な手伝いも終わり、外に出ると雨は上がって晴れていた
駅前のファッションセンターで下着とパジャマの追加を買い、文房具屋を探すのに疲れてしまったので、
百均でペンと小さなクロッキー帳を買って、病院の入院受付に預け、その日は帰った。

その後も入院生活が伸びたので、欲しいものリクエストでちょくちょく電話が入る
雨のち曇りの日曜日、言われた本と新たな画材を取りに、コーゾー宅に訪れる。

駅前はフリーマーケットが開かれ、休日の家族連れで賑わっている。
若草色にすっかり変わった緑園内にも人が沢山いて、のんびり散歩している
明るい緑に光り揺れているニュータウン
気になっていたジェラード屋さんでジェラードを買って、ベンチで座って食べながら風景を眺める
この中に左半身引きずり、一人散歩していたコーゾーさんの姿が、影のようにふと浮かぶ

こんな感じで着替えを渡し、洗濯物を受け取り…で、数日過ぎていく

「腸の結果は、特に問題は無かったです」
「はい」
「それで手術に向けて、循環器の検査も受けてもらいたいのですが、この病院は消化器専門なので、他の病院に一日行って頂くことになります」
「…はぁ」

医者に指定された、二つ先の駅近くの病院に予約を取ってもらい、その日はタクシーで向かう
コーゾーさん、久しぶりのシャバである

「検査終わったら、ちょっと本屋寄って欲しい」
「…だめだよ」
「いいんだよ、いいって言ってたから」

誰が言ったんだろう…

「時間あったらね…私、お父さんのところ行って荷物受け取らないと なんか、不在票入ってたよ」
「…そうか…うん、うん、時間あったら寄って」

しかし、その希望は叶えられなかった

予約した割に、ものすごい待たされ、ようやく順番が回って、その後の診察をまたかなり待ち、私は荷物受け取り時間に気が気ではなく、やっとこさ診察に呼ばれた結果「血管が全く見えないので、このままこちらにカーテル検査で入院していただきます」

だった…

「また入院かぁ」とコーゾーさんは人ごとのように言いながら、病室へとヨッチラヨッチラ看護師さんに連行されていく
残念だったね、せっかくのシャバなのに
「あの、ご家族様…」

はいはい、着替えですよね…病院から持ってきます

「あちらの病院にはもう連絡しておきましたので」

ありがとうございます…

とりあえずタクシーは頼らず、ダッシュで駅に向かい、ダッシュで元の病院へ
そのほうが早い

こちらはコーゾーと違って走れんのよ

荷物受け取り、ギリギリに賭けよう…と、全てを済ませ、夜の九時過ぎにコーゾーさん家の最寄駅からもダッシュした

走りながらケータイが鳴る
コーゾーさんである

「今、宅配の人から電話あってぇ 入院しちゃってるからって言っといた」
「……え…ゼイゼイ………で…?…持って帰っちゃった?……ゼイゼイ…」
「玄関前に置いといてって言っといた」

ちくしょう、最初から置き配にしとけや

徐々に足を緩め、長い長い坂道で
冷蔵庫の中にまだ残っていた、あのアイスは食べてやる
と思い、歩いていた


循環器がアウトだと、手術できないな 

どーなるんだろう…

なんて事を考えながら 

夜の団地街を 

歩いていた





画像はコーゾーさんの作業着ズボン
痩せて、ウエストから落ちてくるので、裾上げを留守中に頼まれたもの