「99%角(かど)を取った人が勝つと思っている。
けど、世の中はまだチャンスがある」
角とは何の角かと言うと、ボードゲーム『オセロ』の盤の事。
深緑色をした、正方形のマス目が引かれた、あの盤。
世界的に有名な、白と黒のコマのせめぎ合いゲーム。老若男女、国籍問わず誰でも出来る。凄くシンプルでメジャーなゲームなので、勝利のセオリーもおそらく有名。
ボードの四つ角を先に多く取った者が、勝ちに近づく。
それで、冒頭の言葉に戻る
「99%角(かど)を取った人が勝つと思っている。
けど、世の中はまだチャンスがある」
私は彼の言う、その99%のうちの一人だ。
そうか、角を取る以外の勝ち方があるんだ…ふうん。
「彼」とは、今は無きNPO法人ルーキーズの理事長、山田豪。当時44歳。
2013年に東海道テレビで放送されたドキュメンタリー番組、
『ホームレス理事長 ~退学球児再生計画~』の主人公になる人物である。
山田理事長は、1パーセントの勝利を知っているのか…それはすげぇな。
と、思える事は冒頭から無い。
無いと言ってもゼロでは無いけれど...。
だって、これからドキュメンタリーは始まるんだから。
しかし、ほぼ無い。
彼は家賃滞納でマンションを追い出され、転々と泊り歩いているネットカフェで、この戦法哲学を話しているのである。オセロのネットゲームをしながら...。
本人に最初から「負け」の要素が多い。
乗っていた車も、クラウンから軽自動車に変えて移動はじめた。
その様子に私は、映画「がんばれ!ベアーズ」のバターメーカーが浮かぶ。
過去のマイナー・リーグの活躍で買ったであろう高級車を、選手引退して清掃員になっても持っていた。
ドキュメンタリーは映画とは違い、勝利のクライマックスに行くか行かないかの脚本が有るわけではない。
後々、山田理事長が高利貸しの金融会社からも断られ、撮影スタッフに土下座して借金の申し入れをする、前代未聞のシーンだって、脚本は無い。
どんだけ負け越しているんだ。大丈夫か。...大丈夫じゃ無いな。
大丈夫じゃないじゃないか。
…?…けど言っている事はズレてはない........
この時の山田豪の姿は、99%負けている人だ。
勝負師、山田の1パーセントとは、いったい何であろうか。
2010年に発足された「NPO法人ルーキーズ」とは、いったい何を目的としている団体なのだろうか。
山田理事長は、元々名古屋の商業高校で6年間野球部の監督を務めた。
そこから経緯はよくわからないが、野球部をドロップアウトして高校を中退した子供たちに、高等学校卒業資格を取得できるようにサポートしながら、野球を通して再チャレンジの教育支援をする特定非営利活動法人(NPO法人)を設立。自身が理事長を務める事となった。
これがNPO法人ルーキーズだ。
チーム名のルーキーズは、ドラマ化もしている大ヒット少年漫画『ROOKIES』から取っている。
人脈をどう集め、その経営を具体的にどこまで考えていたのか...
ほとんど、一人で考えて動いたのかな?とも思う。
山田理事長が一人でずっと資金集めをしつつ、全くお金が集まらないし、新入生もなかなか入って来ない。
何人かのスタッフらしき人も、それに不満を言いながら、これといった案が有る様子も無さそうだ。
教育支援機関に関する具体的な経営経験者は、(ゼロでは無いにしろ)居ないようである。
数年で、経営は崖っぷちもいいところのどん詰まり状態になっていた。
このドキュメンタリーの特徴は「NPO法人ルーキーズ」という特異な教育支援の中で、チームよりも特に理事長にスポットを当てているところだ。
選手達の様々な境遇や背景なども扱ってはいるけれど、まずは立派な熱意と理念を持ち、情熱で空回りし、自分は住処を失い、崖っぷちの経営をトボトボとして怒られながら続け、それでも諦めない個性的な理事長を中心に回っていく。
そして、作品がテレビ放送された当初、視聴者から多くの批判が殺到したシーンがあり、そこも話題になった。
当時ルーキーズの監督だった池村英樹氏が、選手に9発のビンタをする場面が、全くカットせず放送された。
あまりの苦情殺到に、同じ年の5月に再放送が決定した際には、ビンタ2発にまでに編集しなおすべきじゃないかという話にも社内ではなったらしいが、ディレクターの阿武野勝彦氏はこれを拒んだ。
「視聴者を不快にしたことは謝るべきだが、清く正しいものばかり求めると表現が窮屈になる」と主張し、周囲を説き伏せた。おそらく良い評価も多くあり、それも阿武野氏を後押ししていたのかもしれない。評価されているから、再放送もあるのだし。
「清く正しいこと」か...ところで、それが私達視聴者の欲望なんだろうか?
ショックを和らげるという理由に置き換えるにしても...。
登場人物全員、さほど清くも正しくも見えないのである。
体罰問題を扱う報道は多くあり、社会世論も敏感でデリケートになりがちなので、清く正しいと言うよりは、【社会的神話事】になりがちだよな と思うけれど、その話はまた別の機会で。(...機会はないかもしれないが。)
とにかく9発ビンタのシーンに手を加えられる事は無く、作品は話題にもなり、その後東海テレビ局を飛び出して、映画として映画館で上映された。
ちなみに私は2016年に、東京の映画館上映で初めてこの作品を観ている。
それから十年近く過ぎ、今年またテレビ埼玉で再放送されていたので、観なおした。
視聴者の批判を浴びた当初から、今もまだ放送されるのなら、阿武野勝彦ディレクターの判断は正しかったのだろうし、ドキュメンタリーの肝心な主題は多くの視聴者に伝わっていってるのだろう。
山田豪理事長の次に、作品の軸となる人物が選手を9発ビンタした池村英樹監督(当時42歳)だ。
彼は、沖縄の県立那覇高校を型破りな個性的なチームに育て、40年ぶりに甲子園まで導き、「池さん」と選手たちからも慕われた監督だった。
おかやま山陽高校の野球部は、那覇高校とは違い始めから荒れている生徒が多かった。まとまりが無く指導を無視する生徒に監督は平手打ちをした。
その後、その生徒は態度を改め、保護者からは体罰を含めた指導を感謝され、次第に「ある程度の体罰は必要」という考えに監督はなったようだ。
作品には詳しく出てこないが、彼の熱心さは、他の選手や保護者から恨みをかうことになる。
全裸でランニング(練習グラウンドはあたりに住居が無く、人目の無い場所ではあった)などの精神修行や、いじめ問題から生徒を殴るなどの体罰は、虐待だと訴えられた。
池村監督は逮捕され、そのまま野球界からも追放された。
私の個人的な印象として、池村英樹監督は「勝負師として清く、正しいか正しくないかは、わからない人」だ。
なぜ、人材として山田理事長が池村監督を誘ったのたろう?
わからないけれど、結果的にその人選はルーキーズを頼りに集まった崖っぷちの子供達にとっては、適切な人材だったと思う。
ルーキーズが設立された頃、日本の高校野球部への入部は年間やく6万人を超えている。(2009年高野連調べ)
その人気運動部から、やく9千人がなんらかのトラブルで退部している。
今では、メジャー・リーグで活躍する日本人のスター選手が出てきているので、更に人気は上がっているかもしれない。
脚光の場所とは遠い、影の場所。
退部者の中でも、特待生で入部した様なエリート達ほど、そのまま学校も中退し目的を失い、社会でもドロップアウトしていく確率が高くなる。
今まであった生きる目的が、退部によって何も無くなってしまうのだ。
「高校中退者の野球チーム」、ルーキーズの対象は、そんな目的を失った子達に開かれた。
集まった元球児たちの心身は、荒れている。
撮影間もないころも、虫の居所が悪かったらしく、撮影カメラマンに突っかかっていく少年もいたし、山田理事長がチームの将来と運営資金の金策に悪戦苦闘している中、チームの誰かは隠れてタバコも吸っていた様で、カメラはしっかりその吸殻をおさえた。
どこにでもある十代のフラストレーション。
寮の食事もギリギリのメニューだし、おそらく少年たちだって経営に不信感はあっただろう。
人里離れた廃校利用、
高野連には入れないので高校生とは対戦できず、試合相手はいつも社会人草野球か大学生だ。たいてい大きな点差で負ける。
社会に注目される試合とは無縁だ。
再生の地はなんだか刑務所の様でもある。ボーズ頭の彼らは、それでも白球を追いかける毎日を送る。
イライラがたまった少年集団には、たいてい(必ず)、いじめられっ子は存在する。
2012年に入って来たばかりの小山雄嗣(当時17歳)。彼は池村監督に9発ビンタされた選手で、チームの中でも一番下手でいじめられている。
作品の三人目の軸。
元々は名古屋の強豪校に入学したが、部活が上手くいかずそこでも無視され、1年で中退。
両親が病気の為に保護者とは生活しておらず、海近くの児童養護施設からチームの練習に通っている。
監督の目の届かないところでチーム仲間から殴られ、相談もする。
池村監督も「性格は、どちらかと言えば勝負事には向いていない」と言う。
いじめられっ子と野球.........
そんな小山君はある日、試合に大幅に遅刻してやって来た。
遅刻した原因は、前の晩に親と喧嘩して絶望し、自らを傷つけ自殺をはかったため。
「...なんて?」
池村監督は静かに問いかけた
「自分を...傷つけました」
「…...」
それから思いっきりビンタした。
バチンッ!と大きな音が響き、小山君も周りの選手も固まる
「......なんて?」
監督の声の調子は変わらない。彼も固まったまま答えられない。
バチンッ!
そのあと、続けて小山君はバチンッ!バチンッ!と7発殴られ、頬は赤く腫れた。
「お前、自分の命だからって、そうやって扱っていいのか?」
それからチームから離れた所へ連れて行き、改めて小山君に向き合いながら話す。
「(自殺未遂は)初めてじゃないだろ?」
「はい」
「お前のやり方は、脅し。 親がどう思うか」
「......」
「オレも自殺しようとしたことはある。岡山の事件で...オレは悪いことをしたと思ってない。逆恨みされて、もうどうでもいいって思った」
「...」
「あきらめなかったら、ぜったい勝つ。勝たんかったら、おもしろくない。お前、いま何か勝ってるか?」
「......勝って無いです」
「負けのままで終わるな。試合の準備しろ」
「……医者に、肘を動かすなって言われてて…」
「腕なんか、折ってしまえ。お前、プロになるのか?」
「いえ…」
「そうだろ いま、華咲かさんで、いつ咲かすんだ」
池村監督は、この時カメラが全てを捉えたので、再び野球から追放される事は覚悟したらしい。
ここから、小山君はメキメキとやる気を出し.....という事も無く、相変わらずやる気を出したりしょげたりをして、監督に怒られてグラウンドの外で立たされたりしている。
「お前、もう帰れば? やる気感じられん」
監督にあしらわれ、おそらくチームのキャプテンであろうコに慰められ、「帰るな」と説得されながら涙流したりしている。
小山君にディレクターは多く焦点を当てているので、他の子がさほど目立たないが、おそらく個性豊かでそれなり問題のある少年たちがルーキーズは集まっていたのだろう。
監督はチームメイトの前で小山君に「一番へたくそなんですけど、へたくそなりに頑張るんで、これからもよろしくお願いします!」と気合を入れさせてから頭を下げさせ、元にもどす。
「いいか、へたくそだろうが、家庭に恵まれてなかろうが、友達関係に恵まれてなかろうが、再チャレンジとはそういうところなんだ。
順風満帆で恵まれている奴がこの中に一人でも居るか?色んな背景を持っていて、苦しい想いをみんな持っている。 もっと、もっと、自分自身を出せ」
映画館で作品を観てから10年後に偶然観た、テレビの再放送。
そういえば、NPO法人ルーキーズは今どうしているんだろう?
調べると、あれから卒業資格を得た選手の何人かが大学に進学し、そこでも野球を続けたとある。
また、作品内でも最後の方に出てくるが、経営不振のあおりで結局リストラされた池村英樹監督は、ルーキーズ退任後の2014年に脳出血により亡くなっている。43歳。
沖縄人らしい穏やかな淡々とした口調で、厳しい愛情の、野球の勝負師の残像は私に強い印象を残した
母体のルーキーズはどうしているんだろう?
賃金未払いで従業員に団体交渉を申し込まれているが、それは2014年に名古屋地方検察庁において、訴えは不起訴処分にされている。
2016年に通信教育総合学園ROOKIES、2018年にスポーツ総合学園SEEDという社会人野球のクラブチームに変わっていた。
NPO法人ルーキーズは、あの数年だけだった様だ。
そしてスポーツ総合学園SEEDも、2023年に無くなっている。
ホームレス理事長、山田豪氏はどうしているだろう...。
これもまたよく経緯はわからないが、山田理事長は2019年に統一地方選挙で当選し、常滑市議に任命。
日本維新の会に所属し、大村秀章知事リコール運動では幹部になっていた。
「表現の不自由展・その後」の、即刻展示中止を求める文章も杉本和巳議員と提出している。
その間、おそらくホームレスでは無かったのか
が、リコール運動の署名活動で、偽造署名に深く関与していた事を認め、議員を退任している。
またなんで、そんな事をやっていたんだろうか
あんた、アホだ.........はぁ、アホだからか。
山田元理事長は偽造を指示された様子を、田中孝博事務局長の名前を出して具体的にメディアに話した。田中氏はアホを舐めてかかったのだろう。
「愛されるアホ...(笑)理事長って名前を持ちながら......ありえない。どう考えてもおかしいでしょ...自分は電気もガスも止められて...。理事長なんだから、自分の責任にして全部回せばいいのに... あれが中途半端に計算高い人だったら、僕はもうとっくに辞めています。」
リストラされる少し前、スナックで少し酔っぱらいながらスタッフの「監督にとって山田さんってどういう人ですか?」という質問に、笑顔で池村監督は答えた。
愛されるアホ。
それは素晴らしい。
なりたくても、そうそう誰でもなれない。
なれる確率は大変低い。狭き門だ。
それで、その愛されるアホの理念も素晴らしい
「挫折した子供に、努力の方法を教えたい。
でも、誰も教えない時間がかかるから。一度くらいの挫折で、放り出す
ルーキーズは、そういう子と一緒に歩いて、大人も子供も成長する様にしたい」
その努力は「表現の不自由」を意識する事とも関わりますよ?山田さん
…て、話は「難しい話」と却下されるだろうか。
お願い、そこも努力しようお互い。
あなたの経営が悪いのは、世の中が変わらないせい「だけ」では無い。
勝ちの1パーセントは、何だろうか
どこまで負けているだろうか
……私たちにとって、勝ちとは何だろうか
何に勝つべきなんだろうか
偽造は勝ちでは無いと知っていただけ、山田氏は賢いってもんだ。
ここも、そうそう知られていない。(マジで)
「ホームレス理事長 ~退学球児再生計画~」にendが、まだ無い
作品に句読点はつくが、それはオープン・エンドだ
ページは開いたまま、終わっていない
最後に、チームに入って数年後の選手たちのインタビューを書き起こし、
久しぶりのブログは終わりにする。
「(再び、しばらく来ないで、久しぶりに戻った小山君)いや…さいあくです。」
やめる?
「やめないですけど…最悪ですね。落ち込んでたら怒られるんで…怒られるの嫌なんで、やるしかない」
(でも、戻って来るんだな って、個人的には笑った ↓他の上級生たち)
「野球をやってないと…(チームに入って)なんて言うんだろうな…なんかわからんが…なんか、楽しいです」
「ここに来てなかったら、何もやってないから僕 …ここ無くなったら生きていけない……生きていけなくはないですけど、プータローになってますよ…………こんなんやってたら、監督に怒られる」
(池村監督はみんなに怒る)
「…………野球が、好きだから」
負けても?
「負けても」
この子たちは、元気でやっているだろうか







