#9
誰だか知っている人へ
そして
ゲームをしたかったけど、出会わなかった君へ
・・・・・・・・・・・・・
「それがどれだけ確かな事だったか、誰に訊いたらいいのか未だわからないんだけれど」
「うん」
「F原発崩壊に対する国への抗議デモが盛んになったのは、福島やその周辺の災害被災地の汚染数値からじゃ無かったと思う」
「というと?」
「東京にも放射線汚染が広がっているって情報が出てきて、そこからデモが爆発的に広がっていた感触だった」
「抗議運動が大きくなったら、結果としてそれでいいんじゃないの?」
「でも、失った物事は福島現地と東京では違う」
「そりゃそうだよ。現地の事は行かないとわからないけど、都心が同じ恐怖を理解してくれたら、その分声が大きくなるじゃない」
「でもさ…」
「言いたいことはわかるよ?でも、誰でも現地に行けないしさ。汚染被害が共通したら気持ちも同じになったでしょ」
「同じなのもおかしい。F原発で作られた電気は福島じゃなくて東京でつかわれていたじゃない」
「それはそうだよ。だから、原発神話がそこで崩れたでしょ…ねえ、人間が純粋に同じ気持ちになる訳が無い。デモは同じ抗議内容を示す運動で、動き出すことが重要でしょ。それまで、誰も原発反対の活動家じゃなかったかもしれないよ?それはⓂちゃんもそうじゃん。
なかったけど、活動家しかデモをしないなら市民運動の規模は大きくなんかならない。大きくなれば個々の感情は違うよね。違うけど、同じ抗議を声にするわけじゃん」
あの頃から何年経ったんだろう
あずささんと、何年逢ってないんだろう
何年、話していないだろう
人気の消えた田舎街と
東京の電光の量
眼に見えないものの「数値」で感染していった、恐怖だけは除染されたみたいに
・・・・・・・・・・・・・・
父の病院の受付表の裏に
急いでメモしたら
直ぐに呼ばれて、そのまま窓口に渡してしまった
「あ…」って、咄嗟に言って
「え?」って、受付の人は言って
すぐに
「いえ、何でも無いです」と引っ込めた
確認の父の名前と生年月日は、間違えずに言えた
『舞台の中央にマイク 一人上手からマイクに近づく』
『この人は、これから私を演じる』
・
・
・
・
休みの日の昼間のニュース
自分と同姓同名の容疑者
20歳くらいの学生が
妊娠した彼女殴って瀕死状態にし
近所の人に通報され、逮捕されたらしい
誰も死んでいないので「わざわざニュースにするんだな」と思った
殺人じゃなく、殺人未遂
先日のストーカー殺人は同じ番組内で何回も繰り返し伝えていて
その後も、数日事件の続報を流していたけれど
このニュースは、お昼に一度だけだった。
よほどネタの無い日なんだと思った
アパートの窓で、洗濯物が揺れていた
そのまま、大して気にも留めていなかったけれど
職場の清田が、この事件の話を昼休みにしたので思い出した
「犯人、お前と同じ名前だったからさ」
清田も休みの日、テレビつけっぱだったのか… と思った
そしてオレは「清田」って名前の犯罪者が居ても、コイツを思い浮かぶかな?と思った
「どこいでも居る名前だよ、オレの名前なんか」
「犯人さ、十代だったら名前出されなかったのに、ちょうど二十歳みたいだな」
少年Aだと、余計にテレビ番組で扱うレベルのニュースの気がしない
清田はいつも摺り生姜のマイチューブを持ち歩いていて
食事の時はなんにでも、生姜を入れる
なんでも、生姜は体温を上げるらしく
低体温解消の為にやっているそうだ
今日も、社食のA定食の味噌汁に生姜を入れる
それで、忙しくガツガツ食べる くちゃくちゃと喰うのが早い
いつも飢えているみたいに食べる
そして、しゃべるのも早い
「がん細胞ってさ、熱に弱いんだってさ36.5°以上で死ぬんだよ」
と、初めて一緒に飯食ったときに、清田はマイチューブを取り出しながら言っていた
喰い方が喰い方だし、人によっては生理的に嫌われるタイプだ
けど、それ以外はこれといって変わったところも無く、仕事も真面目
同期で、時々オンラインゲームやったり、飲み行ったりぐらいの付き合い
職場で仲の良いほうなんだろう
「誰も死んでないけどさ、お前と同じ名前であら?とか思って。でも、学生って言ってたからさ」
そう言って、清田はメンチカツを三口ぐらいで食べてから
「…俺さ、そいつの事、なんか理解できんのよ」
と言った
「………? おまえヤバいな…」
俺、ちょっと笑う
「うん うん うん」と清田は頷いて、そのまま味噌汁を飲み干した
自虐的にでも無く、真面目に頷くのが、かえって気持ち悪かった
「気持ちが分るってだけでさ」
そう言って、気づいたら清田は定食を完食していて、
プラスチックの湯飲みを持ってお茶を注ぎに立ち上がった
「本当にやらないけど」
清田は小柄で痩せている
見た目に何一つ狂暴なものは感じない
清田と付き合う女も、きっと微塵も感じないで近づくだろう
オレが知らないってだけで実はキレやすいのか?
「やんない やんない 殴んないよ」
お茶すすりながら、清田はケータイをいじった
「最低だってわかってんのよ。
…でもさ…なんかそいつの事を、世間と同じ感じで言えないのよ、俺」
食堂の周りがザワザワしていているのに、
清田の早口の声は良く聞こえた
周りも聴いているんじゃないかと
気まずい気分になったが、誰も気に留めていないようだった
話はここで終わり
オレは自分のご飯茶碗の中を覗き込んで
残りの飯を口に放り込んだ
オレは、オレと同じ名前のそいつを 全く理解できない
理解したら 終わりだろ
・・・・・・・・・・・・・・・・
【国籍不明な「国」の話】
モルタルの青い小屋が、
廃墟同然の崩壊したビルの隣にあったが
ドローン兵器の原因不明の暴走・爆発で
中に居た住人が被害にあった模様
近くにパトカーを停めて
無線で連絡
もう一人の助っ人が来るまで待機する
暴走ドローンが反政府組織のものか、政府軍のものかは不明だが
全ては○○人テロの仕業と、政府は声明を出すだろう
最近の不良品兵器の多さは、どういう事だ
まぁ、今となっては
不良品なのか、ハッカーに無断侵入されたのかも定かじゃない…
世界中、こぞってこの国の為に兵器改良し
新兵器展示場さながら、各国の国益をかけながら
地球半分の経済欲に押されて、我々の戦争は推進されていったが
ここ最近...
…......
死んだのは どうせ○○人だろう
…...…
この間の死体
てっきり、薬物中毒の男娼だったと思っていた
化粧がドロドロ落ちて顔が溶けた様になって
下半身は丸出しで、ピチピチのシャギードレス
オーバードーズに見せかけた他殺…事故…いや、あれは自殺だろう
「コイツは、子供の時に刑務所で散々玩具にされた○○人だ」って
皆でそう言いながら、笑った 瞬間
気づいた
…...あいつ?
十年前の兵役時代、
占領した家で○○人の女たちの服を着て
SNSに上げるのが流行った
任務の休憩時間、
いつも俺らは占領した家の中をぐちゃぐちゃに物色していた
低所得層出身者が多いところに、俺は配属されていた
年齢は、皆かなり若かった
戦争も占領も給料が良くなる条件みたいなもので
自国が経済発展するのは 自分たちの愛国にこそ比例している
あの頃、隊ではまだ誰も前線に行った奴は居なかった
任務内容は、潜伏している○○テロ組織の捜索だが
テロどころか、○○人なんか一人も残っちゃいない
もぬけの殻になった住居地占拠が、当然、実際の任務だ
建物も後から爆発させる
そう思うと、めぼしい物は惜しくなる
持って帰ろうが、特にお咎めも無い
歩兵は、法よりも上官に気に入られるかどうかだけだ
はじめ、誰かが女の下着を次々と箪笥から引っ張り出し、品定めを始めた
どれも大胆な下着で
敬虔な宗教的信仰者の多い、○○人の秘宝の様じゃないかと誰かが言った
一人が、その芸術作品を一つ一つ壁に飾りはじめ
○○人のセックスの話を皆で口々にしながら
自分達の性器で、ヨガリ泣く(○○人に限らず)女達のために
リビングいっぱいの秘宝をSNSで世界に公表した
隊の中では比較的年上で、入隊したての▼に、リーダー的な▽が下着を身につけるよう言った(正直、誰が上も下も無かった。それでも集団では気質がモノを言う)
▼は仲間のイニシエーションとして、軍服の上からブラジャーをした
▼は、数カ月前まで大学に居た外国兵で、新人な分、イジメにあいやすい自分の立場を上手くかわそうと必死で、この儀式をノリ良く楽しもうとしている様だった
兵志願したことを、▼は後悔していたか?
この程度なら、なんでもない
▽はブラジャーをする▼の写メを撮り、SNSにあげた
なんでもない この程度なら
顔を晒すのは▼だが
▽は、家の子供の持ち物であったであろう
1メートルくらいはある熊のぬいぐるみに、
○○人のキャミソールとパンティを着せて
同期の▲に、「こいつとセックスしろよ」と言った
▲は、ニヤニヤしながら熊のぬいぐるみに正常位でおおいかぶさった
仲間は全員爆笑した
それも▽は写メを撮って、SNSにあげた
▲は、片親が外国人で国籍も二つある
そんなのは、この国ではいくらでもいるが、
たまたま、この隊の中には▲ぐらいしか居なかった
ぬいぐるみとのセックスは、住居者の母親と子供、どちらも我が國の兵士に犯られる象徴の様に仕上がっていた
まだ、本物の獲物はない
○○人の女が震え上がればそれでいい
「✕✕隊の誰かが、○○人の妊婦を家族の目の前で犯してから殺したらしい」
入隊した頃、この話がうちの隊にも回ってきていた
包囲した○○人への救援物資を一切入れさせず
爆撃による負傷者は生き地獄を味わっていた
物資の流通が無いところは、物とともに情報もシャットアウトされていく
○○人ジャーナリストが、歩兵の戦争犯罪を人権団体に伝えて、それが外国の報道機関に流れた
翌日、我が国は◇街全体を攻撃し、○○人最高指導者の拘束と占拠作戦が実行された
世界メディアは、一斉にそちらを向いた
上気した上官の指令は、聖なるミサイルを使って一匹のネズミを捕れ みたいな事だった
「飼い猫ならぬ、飼いネズミは言いつけがわからない 不要だ」
ネズミの死体は一晩で三桁を超えた
その「デカいネズミ」から、王ネズミを探す
敵は人間じゃない
そして○○人の避難テントは、鼠が大量発生している
…よくできているもんだ、と俺は思っていた
愛国の兵士も愛国の捕虜になっていた一般人も、今までになく作戦に巻き込まれ戦死したが、詳しい人数はわかっていない
昨今、我が國の人権団体は「政治犯」として次々刑務所にぶち込まれるので、
確かな調査をせず、人数は永遠にわからないだろう
わかったとして、だから何だ?
被害者家族も、国民の比率に対して少数だ
「最小限の犠牲で済んだ」
政府はそう発言する
アウシュビッツ収容所の所長、ルドルフ・ヘス家の庭と同じ環境が我が國だ
ネズミを殺して美しい庭を造る
捕虜が犠牲になる事は、命令が出た時点で兵の皆がよぎったが
最高指導者を殺害した時は、興奮の方が上まった
その晩は踊り狂い、辺りはだいぶ大麻臭かった
俺は正直、神を信じた事は無かったが(仕事上それは打ち明けたことは無い)
古来からの祭りごとの様に、踊り狂った
兵隊は英雄で正義だ
ここから全面的に勝利の占領が始まる事は皆口々に言っていた
奇妙だが、それでも
我々の勝利宣言は、まだ全く聞かない
○○人のクローゼットを開け続けた
▲は、来月この国を出て婚約者に会うと言っていた
▲が軍服を脱いで女装する
今度は、自分から撮ってくれと言って
我が國の政治に反対する、
世界中の人権団体・女性団体が悲鳴を上げられる様に
▲は○○人が嫌悪しそうなセクシーなポーズをとった
そうしていると、なんだか憂さが腫れるかのように
何人かが後に続いて盛り上がったが、▲が一番芝居がかっていた
SNSの炎上反応は娯楽だ
見ると、レースのハンカチみたいなパンティーから
▲は勃起してイチモツがはみ出ていた
俺らはそれを見て笑い転げながら 「熊に抜いてもらえ」と言った
▲はバスルームでシコって、ザーメンはそのパンティーで拭いていた
あの時ラリっていたか?
素面だった様にも思える
定かじゃない
よくよく見ると
その家の床には
血痕が 異様にあちこちにあった
「▲、生理始まったか?」と、誰かが言った
▲は、シコってイッた後のぼんやりした眼で床を見下ろしながら
「ここの住人、逃げ遅れたんだな」
と言った
▲の女装は、世界のSNSに流れた
その後、▲は別の隊に配属され、
数カ月間居た様だ
そこは例の、妊婦を犯して殺した奴が出た部隊だった
写真は削除され、▽もまた他の隊に移った
会うと言っていた月から大分遅れて、▲は婚約者とバカンスを過している写真を、自分のSNSにあげていた
半年後、
女装兵士は▲だとネット上で顔が刺され、名前も出た
あの時の女装と、どこかの外国の街で撮った彼女とのツーショット写真とが2枚、
並べて 世界中で見られていた
それから、もう10年も経っている
▲の行方は不明だった
戦争は停戦したが、これといって何が変わっている訳でも無い
停戦後も攻撃し続ける
そのどさくさに、政府はまた新たな敵を作り 交戦が勃発する
この国は戦争していないとならない
俺は軍はやめて警察官になった
戦後の焼け野原の占領・復興は、予定より大分遅れている
占領した村に、どこから集まったか定かじゃない入植者が流れた
初め政府は、暴れる入植者集団を好きなようにさせていたが、
だんだんとヤクザがのさばって
今ではコントロールが効かなくなった
それで、
おそらく戦闘ストレス反応の影響だろうが、
街では無差別通り魔が多くなった
戦闘ドローンが暴走する
俺は毎日忙しい
いつも、床に血痕がある場所に俺は居る
異様に自殺者が多い
○○人も 俺たちの同士も ずっと血を流している
収束する機関が無い
いつの間にか失われている
時より
血の流れる川の夢を観る
俺はバックパッカーの様な事をしていて
遠くへ旅立とうとしている
その朝に川は氾濫していて
向こう岸に渡れず
俺は、その前でただ 立っている
ただ 黙って 立ち尽くしている
國の自殺率は、世界でもおそらくトップだが
詳しい数は わかっていない
あれから▲に何があったのかは俺にはわからない
書類上、自殺で処理されていた
ただ、それだけ
普段、女装趣味は
無かった様だった
・・・・・・・・・・・・・・
【続・国籍不明な「国」の話】
私の車のナビは、もう相当古いままなので
新しい道がアップデートされていない
車はいま、かつて住宅の在った場所を
まっすぐまっすぐ進んでいる
目の前には、新しく出来た広い道路
長く長く
でも、そんなに車の数は無い
古い地図に存在している家は消えている
その人たちが、どこ行ったのかは知らない
きっと、道路からちょっとズレた場所に引っ越しているんだろうけれど
とにかく、道のわきには民家は一軒も無い
画面では、畑と民家の上をズカズカと車は走っている
ナビは、まるでかつての地層を見せているみたい
この新しい道路をまっすぐ行ったところに、仕事場がある
そこもおととしに出来た工場で、私のナビ上にはない
森の様な林の様な、茂みの中をナビの画面は示していて
目の前は、体育館みたいな白い工場が数棟並んでいるのが見える
そこそこの広さではあるけれど、大企業では無いので
大して目立たない
けどおそらく、こんな田舎じゃないと出来ない工場だ
この中では、
戦争をしている〇国が作った兵器部品を輸入し、組み立てている
出来た兵器は、また〇国に売られる
私の仕事はこの工場の経理
社長は、保守的と言うより右翼傾向強めの職人出で
地元では顔が効く人物みたいだ
土地柄、保守的な中でより目立つための右傾向という印象
一見、人懐っこい会社経営者
「こうゆう事していかないと、仕事回ってこないからね」
面接の時に、製造商品が兵器である説明をしながら言っていた
「あなたは真面目にやってくれそうだと、すぐ思ったよ。真面目が一番」
採用されてから、言われた
私には真面目に仕事する【理由】がある
子供二人、大学に行く資金を私一人が捻出しないとならない
別れた夫からの養育費は、高校までだ
元夫は、子供を大切にしていたので、
今時の学歴事情も気にしてくれていると信じていたのだが、
高校を卒業したら養育費の支払いは終了すると連絡がきた
この不景気に凄く腹が立った
元妻との子供の事など忘れて、新しい家庭でも築くつもりだろうと想像し
別れた原因になった彼の不倫行為も思い出して、感情は呪いに近かった。
けれど、十五年前に別れてから下の子はほぼ元夫に逢って無かったし
不景気の波は彼の会社にも降りかかっているのかもしれない
彼の両親も糖尿病持ちだったので、今は何らかの介護が必要になったのかもしれない
…...そんな風に思い直したのも、今の仕事場で評価されているから
前の職場よりも給料が良い。仕事内容は、腹を決め割り切っている
決して安くない子供達の学費を自分で稼ぐと、自分に誓う
上の子は教師の夢があって
祖母ちゃん好きな下の子は福祉職に興味があるそうだ
時より
社長の強めの右翼思想も、それが納得している信念なのか疑わしい
自分の評価された「真面目」も、自分の性分なのかわからない
なんとなく、自分を騙すために必要で、
やっている事じゃないかと感じる時がある
一種の宗教の様に、頼りたくなるんじゃないか
私のツールは、政治も世界情勢もシャットアウト・ダウンさせる
実際、必要ないから
私は社長と違って、国の為に仕事しているわけじゃ無い
子供達の進学費用に必要だから
支援金を使ってたって、いつも生活費はギリギリだった
なんの贅沢もしていない
この子たちが、不自由なく自分で生きていくために
支え続けているだけ
自分の老後の事なんて考えている時間も無い
「やばいよ、知ってた?告訴されてたあの宗教団体、あるじゃない?」
「…………ん?」
晩酌の豆腐に乗せる葱を刻んでいる時に背中から、上の子が私に話しかけてきた
「信者の寄付金が高額で問題になってたじゃん」
「あー、はいはい」
「あれ、首相関わってるって知ってた?」
「…………〇〇さん、殺されちゃったじゃない」
「違う、違う、今もだって」
「…………んー……」
「カルトだよ」
「お母さん、どうでもいい そんなの」
「あそこに流れているお金で兵器作られてるんだよ」
「……ふん……困ったね」
「…………だめだ、おばさんに言っても」
子供は、冷蔵庫から「飲むんでしょ?」と、私の為に発泡酒を出してくれた
私は子供たちにご飯をよそう
炊飯ジャーを開ける
白い湯気が 食卓を包む
ツールはシャットダウンさせる
シャットダウンさせる
シャットダウンさせる
・
・
・
・
そこはまるで武器庫だった
激安の築30年を超える単身者向けの古いマンションの最上階で
手製の銃は6丁発見された
銃身の数は3本や5本、6本など多様で、
銃によっては数キロの重さがあった
部屋の中はタバコのヤニが染みついていて
壁は変色した六畳一間
火薬の入った缶や、電子秤、ミキサー、工具、
殺人に関する本などが置かれていた
「こんな場所で隠れて造っていたのか。誰も想像できなかっただろう」
「マニアは造形美に拘る。Yにとって銃は、あくまでも殺すための手段でしかなかった」
(『絶望の凶弾』参照)
・
・
・
私の車のナビは、もう相当古いままなので
新しい道がアップデートされていない
車はいま、かつて住宅の在った場所を
まっすぐまっすぐ進んでいる
目の前には、新しく出来た広い道路
長く
長く
・・・・・・・・・・・・・・・
【続・国籍不明な「国」の話 ②】
matuが逃げた
これで何度目だろうか
matuは心が壊れてしまっているけれど
身体が動くので
壊れた自分から逃れたくて走り回る
走るmatuの足は
壊れたmatuの心まで連れて行くので
matuは走り回りながら
ずっと怯えている
街の外れにある道祖神まで、逃げる
そこに行けば、助かるとでもいう様に
実際は、助かるわけではない
単純にそこまで走って、力尽きたかのように
眠っている
道祖神は楕円形の様な石だ
なぜ、石なんかを祀ったのだろう
石は太古の頃では生活用具に使われていたはずで、
それが何故、宗教物に変わったのだろう
現代芸術の様な、オブジェの様なものに見えてしまう私の眼には
丸い石が、何と交信しているのかわからない
分からないんだけれど、一個、引っかかる話があって
昔々、アジアの端っこの小さな国が、戦争に負けた後に
戦死者を祀る社殿を國が建て、その社殿の隣に有名な彫刻家が、水を求めて死んでいった兵士達の為に、泉をイメージした彫刻を贈った。
その彫刻は、何の宗教的な象徴は無かったのに
泉に手を合わせながら、死者に話しかけて泣いている親族が後を絶たなかった
この話を、絵描きのamさんが教えてくれて、
「彫刻は道祖信の様な役割で、抽象が一層宗教的に感じたんだろう」
と言った。
「国の決めた戦争で死んだ後も、国の神様に子を持って行かれる必要は無いからな」
と、amさんは言った。
どう言う事かはよくわからない
「何故、うちの街は道祖神を入り口に置くの?」
と、質問してみた
「詳しい事は分かっていないけど、大昔、村だった頃に悪いものを入れさせない為の守り神なんだけれど…それがそのまま残っていて...」
うん
「厄除けなんだろうな…けど俺はそこで行き倒れた者が居た事も、表しているんじゃないかと思うかな」
よそ者が、そこで死んだのか
私達の祖先は入れてあげなかったって事でしょ
「……さぁ…どうなんだろうな。何があったかわからないけど、そこに死があって、誰かが神様を添えたんだろ」
何があったんだろう
「お前が 調べようと思えば、埋まってしまった声を聞いてみる事はできるだろ
お前には、時間がまだまだあるんだから」
そう言って、amさんは今 取り組んでいる作品に取り掛かった
amさんには時間は、もうあまり無さそうだった
キャンバスの大きさは、人によっては大きくて
人によっては小さいサイズなんだろうけれど…...
私には大きく感じた
matuは今日も逃げる
matuは心が壊れてしまった
matuが心が壊れてしまったのは
戦争で
無理矢理 人を殺したから
殺す必要も無い人を
殺したから
「なるほど、キリストが居なければ人は罪を感じないで済むのにな…...もう手遅れだけどな」
とも、amさんは言った
私はキリストの事も よくわからない
matuは、街の外れにある道祖神まで逃げる
そこに行けば、助かるとでもいう様に
そこまで走って
力尽きて
眠ってしまう
matuは壊れてしまっていて
私は、matuが眠る
ここに埋まっているらしい
声を聞こうと思う


