kozosannokotoの日記

コーゾーさん81歳、左半身不随意、売れない絵描き。そのコーゾーさんの娘が書く介護日記です。

あのコは加工肉が好き (間借り)


#2


誰だか知っている人へ


これはきっと、僕の最後の仕事になるんじゃないかと思う
多分、そうなる

今度こそ、終わりに近づいていると思うんだよ
きっとね

曖昧にしていたことがさ

僕は 君が誰だか知っている
全部は知らない

でも、顔と 名前と 何をしている人かは知っている
君は 僕を知っているだろうか

知っている とも言えるし
全く わからない とも言えるかな?

君は 僕のことを見てきたね
なんでだかは 正直なところ わからない

一個 言えることは
君が欲しかった 何かが あったんだろう

僕にも欲しかったものが あったよ
それが 君なのかどうかは はっきりしない

僕は君に恋したけれど
だからって どうしようも無いことは わかっていた

君を欲したら、きっと僕は君のことを壊しちゃうだろう

もちろん、肉体的に痛めつけたりしないよ
精神的に追い詰める意地悪も 出来る限り 出来る限りはね しない

それでも きっと壊してしまだろう

なぜなら、君が欲しがっていた物事は、結局は僕じゃ無い可能性が大きいから
君がそれに気づかないように、僕は嘘をつかないとならない

見えない契約書の様な そんな詐欺行為

見えないし 法にも触れないから
罰せられる事は 無いけれど

誰も気には留めやしないだろうけれど

けど 神様は きっと全部 知っているだろう


街に出て、CDショップを回っていた頃が懐かしい
輸入レコード屋の棚を漁ったり ジャケットの紙の匂いとか


そこで偶然 君には出会いたかったよ
ちっぽけな街の片隅で


でも、君はそこにはいなかったんだ


そう そこには 僕ら一緒には
居なかった

 
そんな漫画みたいな偶然を
神様はくれなかった


こんな事を想ってしまうのは
その頃が楽しかったにしろ 孤独で


君も何か
共有するんじゃ無いかと思えたからかも









…はぁ、間借り生活の #あのコは加工肉が好き② です

#とても変わった手紙 のトーンは割と暗めなので、引き続きの僕も元気なさげですね。
まぁ、書いているのは私なんですけれど。
#あのコは加工肉が好き は、別に#とても変わった手紙の続編とかでも無かったのですが、成り行き上そうなって来ましたね。
この先、どう転がるんだかな?
元の構成は、前回の#ハートホテル みたいな物語だったのですけれど、奇形化されている#とても変わった手紙 が気の毒になったので、自分で自作を救出しようかなと思い直しました…

この僕の喋り口調は、確かサリンジャーの小説をいくつか読んで(そもそも著書が多く無いので、あれとあれ。そう、あれとあれ)
僕 の一人語りを作りました。

彼は怒りと虚無感に苛まれている人なんですけれど、彼の怒りはちょっと分かりにくいですね。
元気ないので、怒っている様にも見えなかったかも。
でも、現実的にそんなもんじゃないかと思いますけどね いじめられっ子の怒りは…見た目なんかは
これは誰にも見せない自分のディス・ノートじゃなくて、誰かに宛てている手紙なので、見える範囲がそんな感じとは読まれなかった様です。
彼は彼の自尊心と自意識で怒りを公にしてもいないのかもしれないし
心の中では毎日「死ね死ね死ね死ね」って想っているのかもしれない
(そこのあなたも、そんなところ無い?)

で、そういう心境も手紙の相手には告白しているんですよね
感情にかまけて、誰かをぶっ潰してやりたい と
僕の危険なところは ○○を じゃなくて 誰かを なんですよね

というのは、誰だか知らない人に攻撃を受けているので、やり返すのも誰だか知らない「誰か」なんです。
恐ろしい話ですね
この僕も、誰だか知らない 狂った怒りの模倣者になっているんですよ。
(このあたり、もう少し深く掘っていきたいですね)

そういう地獄にいる様なんですね
…で、それでもどうにか留まろうとしているんです

大震災の当日に(怖くて)「眠れない子へ」って眠り方を教えてくれているお化けのアイコンのツイートをRTしている彼女の、その人の唄の事を思い出しながら。

ほら、ラブレターだ
ただ、このラブレターはその彼女に宛てては書いていないんですが…
手紙の相手は、違う誰かなんです。
書き始めたきっかけが、彼女じゃ無かったのでしょうね。もう疎遠になっていたのかも。


でも、僕が一番「怒っていない人」に受け取られたのは
彼が自分で『大震災後に最初書き始めた詩』が、子供が親に尋ねるように 神様に尋ねていたってところかな
それがやたら「聖」に受け止められたんでしょう 

日本の宗教観は大変に独特なのと、震災で多く出た死者のために「祈り」という言葉がメディアにも乗りました
で、そういう大きなメディアに乗ると、政治は利用もしますよね。
「祈れ」「がんばれ」「優しく」がだんだんスローガンの様に震災者をくたびれさせ、対峙するように視聴者は無意識にも強制的な善意に感じてきます。

というわけで、祈りも優しさも言葉としては既にスカスカ状態です。
でも、この後も言葉は繰り返しイニシエーションの様に袋叩きに合います
集団で言葉にストレスを感じさせられたのだから仕方がない。
スカスカなんで、その通過儀礼もスカスカしていますが。

#とても変わった手紙 の前半は、大震災発生からF原発が曝発して、怒りの市民にとってのカタルシスには非常に反する立場に読み取られた可能性も大です。
綺麗事の神秘主義というか。
その波にどう反応したのかよく分かりませんが、去年お亡くなりになられた安倍前首相の奥様、昭恵夫人がこの頃の前後に、なんちゃって科学の神秘主義を匂わせながら、「語り合う場」としての居酒屋店主デビューいたしました。(外国の方が読んでいたら意味がわからないでしょうが、書いたままに受け取ってください。そのままなので)
で、この神秘主義新左翼の言葉でしゃべる極右に変化もしていきます。わー謎。

また後で時間系列に合わせる意味で今書いておきますが、#とても変わった手紙 を書いた頃の日本の政権は民主党政権で、今の巨大政党自民党は野党でした。
自民党の極右風はこの後に吹き散らかします。 

あーどんどんカオスになっていく


とりあえず、書いた当初は
彼女の唄だ、神様だ、夕陽だ、怒ったら負ける(実際には「夕陽の色が、怒りに見えたら負ける」)だとー!なに寝ぼけてるんだこの野郎!的な感情はあったかな。

まぁ、それでもイマジンは歌うんでしょうけれど
(一応断っておきますが、私は今なにも冒涜していません。でも、気に障ったらごめんなさい)


SNSにも書いたのですが、僕は自分の怒りを最初から最後まで抱えています
その怒りを自分ではどうにも出来ないでいます

このまま行くと気が狂います

そういった怒りを、原発反対運動に転化し、政治運動に、社会運動に、自然保護運動に転化して感情を表すべきでしょうか?
そういう方向に持っていったら、ひょっとしたら何かしらの共感はあったでしょうか?

そうかな?

私は、それが一番嫌で、とてもじゃないが共感できませんし、
そういう事をする奴は裏切ると思っています。



僕が留まったのも、その辺りですね




#とても変わった手紙 は、この後に大きな失敗をしています

そこは認めて、引っ張り上げて葬り去ってあげないとならないなーと思っています。


ではでは
動き出せ #あのコは加工肉が好き!

誰だか知っている人、また次回!






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この頃、私の体重がぐんと減った。
減った原因は、単純に食べてる時間が無かったのと
眠っている時間が無かったから

睡眠不足が一番体重が減る
不眠ダイエット 目の下にクマ付き


日記を読み返すと、老夫婦が退院して8日に帰宅してから、夫と買い物に少し出かけたぐらいで
5日ほどひたすら眠っていたようだ。あまり記憶にない。

8日は帰り際、コーゾーさんをめちゃくちゃ叱りつけたようだ。
これは記憶にある。

今振り返ると「もうここまで生きてきて、今更生活習慣は治るわけがない」と思えばそんなにカリカリする必要も無かったのだけれど、
しばらく頻繁に会っていない親子というのは、そうなった原因は無視できない。

ほんと、許してないわ 私 と改めて思う。

「お父さんて、結局なんもわかってないよね」と言っていた10代の自分に逆戻りである
逆戻りしても、コーゾーさんは既に弱々の老人になってしまった。
ぶつかりがいが無い



目覚めは、何時頃だっただろうか。
山の中の公団住宅は、早朝から野鳥の声が響く。
本当に東京かな と思えるぐらいに 小鳥が元気に囀っていた。

朝食の用意をしていると、奥さんがすぐに起きてきた

「気にせずゆっくりしてください」
「いえいえ、よく寝れましたよ」

そんなやり取り。

「目が覚めて、幸せだなって思えて」
「ははは 良かった」

牛乳を温めて、食パンを軽めに焼いて、バナナを切って、ヨーグルトを…

コーゾーさんも起きてきた

夫婦は向かい合って座り、お互いの体調を気にかけながら
何かお喋りしている。
奥さんはよくしゃべる明るい人で
母とは違うな と思った。

「目が覚めて、本当幸せよ」

また同じことをコーゾーさんにも言っている。

「だってね、入院していた同じ部屋の人ね、家族がいないって人は多かったのよ」

なぜか、ヒソヒソ言う

「あなたがくれた絵ね、ずっと飾っていたのよ。みんな誰が描いたのか聞いてきたから、夫ですって、画家の妻なんです って言ったの」

それは何故か ハガキサイズの壺の絵だった。
入院している妻に、なんで壺の絵なんだと思ったけれど、たぶん奥さんが静物画用に買いためた壺型の花瓶が目に入って、
他に写生するものも無かったので描いたんじゃ無いかと思われる。
発想が、手の届く範囲で止まりがちなんだろうと思う。

奥さんが誕生日の日に、コーゾーさん一人で手紙と一緒に届けたやつだ。
本当は花かお菓子を届けたいのにって言っていた日。

画家の妻なんです ってところが、コーゾーさんは嬉しそうだった。
世界中で奥さんだけが、コーゾーさんを画家だと言ってくれる。

具合が悪くなった時は、それなりに不仲になっていたんじゃ無いかとは察するが、
とにかく二人は仲の良い老夫婦に戻っていた
朝食を食べながら、あちこち二人で旅に出ていた頃の思い出話が止まらなくなっていた。
時間の自由がきく仕事をしていた奥さんは、コーゾーさんに仕事先まで車で迎えに来てもらった時、そのまま気分と思いつきの小旅行に出かけてたらしい。
泊まるところもその場で決めて、気ままな車の旅
運転手は半身不随の夫
車のカセットデッキからバッハが流れる
霧に霞む山道を中古の車は進む

「そんな道を?よく怖く無かったね、半身不随で」
「お父さんね、運転うまかったですよ。片手でよくやるなって感心しちゃって」

そんなところも、奥さんは神経質な母とは違う。

脳梗塞で倒れた時、奥さんが「もう車で出かけられないのね」と残念そうにしていたので、コーゾーさんは退院してからも必死にリハビリしつつ障害者運転免許を取得した。
障害があっても、生活は変えない がモットーだったらしく、タバコもそのまましばらく吸っていたらしい。
変な意地だな と思う。

「本当に、よくあちこち行ったわね」
「元気になったら、またゆっくり出かけられるかもしれないですよ」

話は、それから 二人の出会いになった
美術品販売の職場で出会っていた

「席がちょうど向かいで、オフィスに有線のクラシックが流れていてね、あ、モーツアルトだ ってお父さんが言ってね あらクラシック好きな人もいるんだわ、こんなところでって思って。だってね、周りはカラオケ好きのおっさんばっかりだったのよ」

…うわ、コーゾー狙って言ったな ダサ
娘はその時のコーゾーさんの表情まで予想できてしまう

奥さんは、多分風俗的な文化より、芸術的文化に飢えていたんだと思われる

「それで、美大出てるって話も聞いてね、あとあそこ…定食屋さんに連れて行ってくれたのよ。そういうの初めてだったの私」

詳しくは書かないが、奥さんはそれなりに苦労してきた様なのだけれど、
言うことが少女みたいだ
年齢的に、女性が定食屋に入るって無かったのだろうか

…そんなことも無い気もする

東京に出てきたての田舎の女の子みたい

…で、その出会いの頃は、コーゾーさんは多分母とまだ離婚していない
美術販売の仕事も、母に勧められてイヤイヤ行っていたところで、給料はバイト程度だった
生活は、母が支えていた

「y子さん、綺麗ね お母さんも綺麗な方だったわよね、写真、綺麗でしたもの」

急に言われて 少しギョッとする
片付けをしていた時、そういえば母の居る私たち家族写真はポロポロ出てきた

コーゾーさんは堅い表情をしながら
当時はなんでも母の指令で動かされていて、自由が無かった と言い始めた
ゴニョゴニョと言葉を濁らせながら

「はは、 なんだそれ」とだけ私は言って
空いた皿を片付けに、聞かずに席を立った


なんだそれ マジで


コーゾーさんは気が弱い男だ
相変わらず でも威張るんだよね

あんたら二人は別れた相手の悪口言って、仲良くやってんのか

怒りの皿洗いである

「久しぶりにパンを食べれた」
「そう、病院じゃやっぱりダメだったの?」 と、奥さんが聞く
「そんな事無いんだよ 柔らかいとことなら…」

しばらく体が固まって、コーゾーさんはさっき食べた朝食をトイレで吐いた

青い顔をして、ふうと一息つく

「大丈夫?」
「…うん、急いで食べちゃったみたい もっとゆっくり食べたら大丈夫だった」
「久しぶりのパンだからね」
「…そうなんだよ、美味しくてついつい急いで食べちゃった」
「しばらく お粥の方がいいかも」
「…いや、ゆっくり食べたら 大丈夫」

奥さんが、心配している

「大丈夫なんだよ 甘いものも、禁止じゃないし なんでも食べれる様になるって言ってたよ医者も」
「そのうちね 甘いのも、わざわざ食べないといけないものじゃ無いよ」と、私
低血糖になる事を考えてないだろ?」
低血糖は、極端に食べてるか不規則だからでしょ お父さんは甘いものに逃げ過ぎ」
「病院じゃ、食べなさいって言ってたよ!」
「食べなさいじゃ無いでしょ、食べてもいい でしょ!」

何これ 子供の言い分みたい

「あのね、私も言いたかないよ 好きなよーにどうぞって言いたいわよ」
「お前は 分かってないんだよ 低血糖がどんなに怖いか!」
「わかる わかんないじゃないの! 同じことやって、また倒れるなって言ってんの!」

言うこと聞かない娘にどう言い聞かせようか…って顔をコーゾーさんはしている
奥さんなら はいはい言ってくれるのに 

「お父さん倒れて 困るのは 私らじゃないの、奥さんなの 分かってる?」

奥さんは間におとなしくしていたけれど
宥めるように「これはy子さんの愛情よ」とコーゾーさんに言う

やめて やめて
別に愛情じゃ無いっすわ マジでムカつくわ


コーゾーさんは奥さんを出されると返す言葉がない
実際、守れて無いのだから
困ったように、禿頭を擦っていた


あなたは誰を守ってきたのよ
あなたの絵を守れなかった母に謝って欲しいの?


奥さんは、壺の絵を百均の小さな額に入れて飾った



朝食が済んでからリハビリも兼ねて奥さんと洗濯物をベランダに干していると、
食事の用意を担当するヘルパーさんがやって来た。

冷蔵庫の中を簡単に説明しつつ、大体の一回の塩分量やご飯の量を伝えて、契約のサインをした

ヘルパーさんは、一品だけ試しに簡単おかずを作って帰って行った

その日の用事は全て済んだので
私も荷物をまとめて、そそくさと部屋を出た
別れ際、なんて言ったのかも怯えていない

コーゾーさんは、何度か「ありがとう」を言っていたと思う





長い坂道を降りながら、
吐いたのは、急に食べたからってより、
母の話を自ら急にしたからじゃないのかな…と思った



人間関係の何やらで
急に背中を押されて